ある朝、シャワーを浴びていると、指に信じられないほどの量の髪が絡みつきました。鏡で後頭部を確認すると、そこにはくっきりと500円玉大の脱毛部分ができていました。これが、私の円形脱毛症との闘いの始まりでした。パニックになりながらも、すぐに近所の皮膚科を予約しました。診察室で医師は私の頭部を丁寧に確認し、「典型的な円形脱毛症ですね。ストレスや疲れが引き金になることが多いですよ」と静かに告げました。その診断に少し安堵したのを覚えています。原因不明の恐怖から、治療法のある「病気」なのだと認識できたからです。そして、医師から「これは病気の治療ですから、もちろん保険が適用されます」と聞き、経済的な不安も和らぎました。その日から、処方されたステロイドの塗り薬を毎日患部に塗る治療が始まりました。最初の1ヶ月は変化がなく、本当に治るのだろうかと不安な夜を過ごしました。しかし、2ヶ月目を過ぎた頃、脱毛部分にうっすらと産毛が生え始めていることに気づいたのです。それは本当に細く、頼りない毛でしたが、私にとっては大きな希望の光でした。通院のたびに医師は励ましてくれ、保険適用のおかげで診察と薬代を合わせても毎回千円程度で済みました。もしこれが全額自己負担だったら、私は治療を続けられなかったかもしれません。半年後、脱毛部分はすっかり元の髪で覆われました。この経験を通して、私は薄毛の悩みを一人で抱え込まず、まずは専門医に相談することの重要性を痛感しました。そして、日本の医療保険制度のありがたさを身をもって知ることになったのです。